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気付いたことがひとつ。病院食は注文を出せばそれに応じて栄養価の範囲内で変更してくれるということ。
うどんが食べたいな、と言ってみたらうどんを提供してくれた。
多少薄味だったが、薄味好きの僕にはちょうどいい。
さすがに毎回注文をつけるのは気が引けるし、たまに気分転換にしてもいいかもしれない。
変化を求めているわけではないが、少しぐらいの変化はやっぱり欲しいものだ。
それに毎回だとそれが当たり前になって有難さも楽しみさも感じなくなる。
―――コンコン
―――どうぞ。
毎日でも刺激になってくれる訪問者。決まってほぼ同じ時間に来てくれる彼女。
距離を取らずに話をしてくれる感じが好感を持てるが、たまに少しイラっとすることがある。
人間、図星を指されるとイラっとするのは本能か。
「おはよう。失礼するよ。はい、お見舞い。今日は迷ったよ」
―――迷ったなんて初めて聞いたね。今日は何だろう。
「カフェオレとブラック。何でも良さそうかな、と思ったからさ」
―――正解。余った方いただこうかな。
「じゃあカフェオレはもらおうかな。隣、失礼するよ」
―――どうぞどうぞ。
「はい、どうぞ。やっと最近表情が柔らかくなったね。何より」
―――ありがと。そうかな。さすがに最初のうちは多少緊張するよ。
「そう、だね。それはよくわかるからね。砕けてくれたのは嬉しいよ」
―――どういたしまして。こういう表現が正しいかはわからないけど。
「こちらこそ。今日は、何しようか。そこらに置いてあるゲームで遊んでみようか」
―――オッケー。どれでもルールはわかるから好きなのどうぞ。
「じゃあ適当に選ぶよ。これがいいかな」
―――よし、負けないよ、悪いけど。
「同じく、ね」
彼女、凛花との会話は楽しい、というか話が良く合う。
話していて苦にならないし、自然に会話が進む感じだ。
ただ、ニュースやら芸能の話題にはさして興味が無いらしくノリは悪い。
僕もそっち系の話が特に好きなわけでもないので好都合といえば好都合ではある。
ニュースは気になるから積極的に見るが、会話合わせくらいにしか話題に出すことはないし、わざわざ凛花とするような話でもない、はず。
今日は初めてゲームで遊ぶみたいだし、会話も弾むとハリが出るな。
「私の勝ち、ね。これは結構嬉しい、かな」
―――負けた。強いなぁ。
「そう、かな。僅差だと思うけどね。次やったら私が負けそうだね」
―――そうかな。もう1回やってみる?
「残念だけど、今日はこれくらいかな。頭使ったし、時間も、ね」
―――そっか。じゃあ次は負けない。
単純な陣取りを模したボードゲーム。
僕は結構強い自覚があったから、負けたのは口には出せないが、本当に悔しい。
次は絶対に負けない、というか負けたくないものだ。
「楽しみにしてるよ。あと、顔に出てるよ、一応、ね」
―――あはは。出ちゃってたか。負けず嫌いだからね。
「それは私も、かな。今日はこれでお暇するよ。それじゃあ、また、ね」
―――また明日。楽しみにしてるよ、いろいろ。
「私も、ね」
そういって振り返ることなく部屋をあとにする凛花。
最初は少し寂しいと思ったその光景も慣れてはきた。
また明日、その言葉がちゃんと実現されるから。
刺激があるといい、そうは思っても凛花が来ない1日、そんな刺激は嫌だな、そんなことを思うようになった。